こんにちは。当ブログをご覧いただき、ありがとうございます。
河野行政改革担当相が、行政文書における脱はんこに前のめりで取り組んでいます。当ブログでも先日この話題を取り上げ、はんこに代わる電子認証システムを紹介し、今後の動向に注意すべきと書きました。
政府がどこまで本気でやるのか様子をうかがっていたところ、自治体のシステム標準化を2022年度から始め、原則2025年度までに導入するとのニュースが飛び込んできました。かなり速いスピード感だと思います。
システム標準化22年度から 自治体に導入義務付け | 共同通信
システム標準化はデジタル化推進と一体で進められるものと思われます。これが脱はんことどう関係するのかを踏まえながら、病院に与える影響を考えていきます。
システム標準化が意味すること
自治体で稼働している住民基本台帳などのシステムは、これまでは各々で調達し導入してきました。そのため納入メーカーやシステムが異なっており、仕様の違いから横連携しにくい状態になっているのが実状です。
転居・転出届など自治体をまたぐ行政手続きをオンライン化するには、まず自治体間で横連携できるようにしなければなりません。
今回のシステム標準化は、平たく言うと標準として定められたシステムをみんなで使おう、ということです。家造りに例えるならば、これまでオーダーメイドの注文住宅だったものを、ハウスメーカーが提供する定型的な作りの家にするイメージです。
標準化する意味は、機能性、利便性、操作性などを一定の品質に保つために仕様を定めること。同じ仕様に沿ったシステムをみんなが使うことで、情報連携しやすくなるわけです。
これまで閉鎖的ネットワークであった自治体のシステムが、標準化によって情報連携の基盤が整う・・・これはとてつもなく大きいインパクトです。基盤システムは自治体の心臓部ですので、ここをテコ入れすることは自治体にとっても大掛かりな工事になります。まさしく政府の本気度の現れと言えます。
行政が法的にもシステム的にもオンラインに対応するということは、デジタル化の一環である脱はんこ政策も一体で進むことが予想されます。
自治体が対応すれば民間も追随する
先進的な取り組みをしている自治体では一部の行政手続きに電子申請が利用できますが、いまだに多くの自治体では対応していません。転居届なども基本的には書式をPDFでダウンロードし、押印して郵送・持ち込みする形がほとんどで、電子申請とは程遠い現状です。
行政のデジタル化が進み、これまで押印を求められていたものが電子申請で済むようになれば、民間も追随するでしょう。民間からすれば、手続きをオンラインで行えることは歓迎ですよね。市役所に出向く時間や待ち時間を省けますし、コロナ禍の昨今にあっては3密回避にもなります。
何より行政が対応するということは、法律や制度が整うことを意味します。今までは、はんこ廃止にしても「デジタル化する技術はあるが、本当に踏み切っていいのか?」「法的には問題なくても、慣習上問題があるのでは?」という疑問を誰しも払拭できずにいたはずです。
政府は年末調整や確定申告の書類でもはんこを廃止する動きを見せており、法律の改正も検討しているようです。
政府の「脱ハンコ」加速 年末調整や確定申告も廃止検討:朝日新聞デジタル
最もお硬い組織である役所が、重い腰を上げ先陣を切ってデジタル化するのであれば、デジタル化の機運が一気に高まる可能性があります。
病院に与える影響はやはり処方箋
では、はんこの廃止が病院にどういう影響を与えるのでしょうか。
上で紹介した当ブログ記事でも取り上げたように、インパクトが大きいのはやはり処方箋でしょう。処方箋の運用は、電子カルテや医事会計システムから印刷し、医事課で押印するやり方が一般的でしょうから、はんこを廃止するなら、医師が署名するか、押印なしを認める法改正をするか、別の方法を設けるか、ということになります。
医師法施行規則
第二十一条 医師は、患者に交付する処方せんに、患者の氏名、年齢、薬名、分量、用法、用量、発行の年月日、使用期間及び病院若しくは診療所の名称及び所在地又は医師の住所を記載し、記名押印又は署名しなければならない。
押印なしを認めるということは、処方箋を偽造(コピー)しやすくなってしまう恐れがあるため、政府がここをどう見るのか注視したいところです。あまり表立って報道されませんが、向精神薬など医師の処方がなければ手に入らない薬を多くもらうために、処方箋を偽造する犯罪が現実には起きているのです。個人的には、停滞していた電子処方箋への移行が本格化するのではないか・・・と考えています。
記名押印の代わりに署名にする運用は、病院では現実的ではありませんよね。年末調整や確定申告といった個人レベルの書類ならまだしも、日々何百人と訪れる病院で医師が1枚1枚に署名するのは時間と手間が掛かりすぎます。なによりアナログなやり方であり、脱はんこによるデジタル化推進と逆行してしまいます。
電子処方箋の導入となると、これまた設備投資の話になってきます。電子処方箋とはつまり病院と薬局間で処方箋のデータをオンラインで送受信するシステムですから、それぞれがシステムを導入していなければなりません。処方箋はどの薬局でも扱えますから、システムが入っていないところとは従来どおり紙の処方箋でやるしかなくなります。
コロナ禍で収益が悪化し経営体力が落ちている今、病院にとっての再優先課題は業績を戻すことのはずです。ただでさえ、オンライン資格確認(マイナンバーによる保険証確認)の対応でシステム改修が求められるのに加え、電子処方箋とくればすぐに対処できるはずがありません。
オンライン資格確認については、こちらの記事で取り上げていますので併せてご覧ください。
処方箋については少し考えただけでもいろんな問題が出てくるので、すぐに押印が廃止されるとは思えませんが、心づもりと情報収集はしておかなければなりませんね。
院内決裁が電子化になる?
医療現場への影響としては処方箋が挙げられますが、一般企業と同じように、病院でも押印する機会は多々あります。代表的なものは院内の決裁でしょう。上層部に決裁を取るには役員が押印していきますよね。これに関しては法的な制約もありませんので、電子認証ソリューションなどで解決できます。
ただし電子認証ソリューションは、一人ひとりがパソコンを持っている前提で、クライアントソフトを使って承認処理を行うやり方が一般的。デスクワークの職場であれば、各端末にソフトをインストールするだけの話でありさほど負担には感じないかもしれませんが、現場仕事が主体である病院は、常にパソコンに向かっているわけではありません。押印一つで済むものが、承認の都度ソフトを立ち上げなければならないのは、多忙な現場職員には負担に感じるかもしれません。
またセキュリティ保護の観点から、院内文書を電子カルテのネットワーク内に管理している病院もあるでしょうから、同一ネットワークに共存できるのかが課題になってきます。
以上、病院内SEから見た、脱はんこが病院に与える影響を考えてみました。
出てきているニュースを見る限り、政府は思ったより速いスピード感でデジタル化を進めています。法改正が進めば、それに合わせた電子認証ソリューションも次々と登場してくるでしょう。自民党内部からは拙速だとの声も出ており署名にて反抗する動きも出ているようですので、引き続き動向を注視しておきたいですね。
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当ブログでは、病院に勤務するシステムエンジニアの私が、関係法令の改正やパソコンのトラブルシューティングなどをSE目線から紹介しています。面白そうだと思っていただけたら、ぜひブラウザにお気に入りの登録をお願いします!
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