病院のSEとして10年以上働いている白狐(しろぎつね)です。
読者から当ブログへご質問をいただきました。現在はIT業界で働いておられ、転職を考えているとのこと。
同じ境遇・同じ世代の悩みというのは、一般的な転職サイトではなかなか得られないもの。貴重な生の声ですので、IT業界から病院へ転職した立場として、僭越ながら回答させていただきます。
目次
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質問
はじめてご連絡いたします。
こちらのサイトには「IT業界から足を洗いたい」と検索したどり着きました。
私は現在IT業界で働いておりますが転職したいと考えております。
院内SEについて求められるのは人間力だと書かれておりますがそれは言い方を変えると忍耐でしょうか?
また、もともと白狐様はPCなどがお好きだったようですがITが苦手な人間は院内SEもおすすめできませんでしょうか?
また、コロナになり院内SEの仕事の仕方など変わった(テレワークが導入された、人員が増やされた)点などございましたらご教授いただけたら幸いです。
お忙しいところ恐縮ですがよろしくお願いいたします。
白狐からの回答
ご質問ありがとうございます。
私もSEの端くれだったので、元同業者として勝手に親近感を感じております。
質問者様がご覧になった記事はこちらですね。
単刀直入に言いますと、院内SEに求められる人間力とは「コミュニケーション力」です。その理由については下記記事で力説しましたので、すでに読んでいただいているかもしれませんが紹介させてください。
しかし、たしかに「忍耐力」が必要な場面もあります。忍耐力について、少しお話します。
私の考えるコミュニケーション力とは「相手の真意を汲み取る力」。院内SEの仕事相手は病院の職員なので、彼らと対話するときには「本当に言いたいことは何か」を感じ取ることが大切になります。
会社で会議するかのように、みな理性的・合理的に話してくれれば苦労することはありません。しかし病院は命を扱う職場であるがゆえ、時として冷静な対話ができず、職員と対立することがあります。その結果、人使いの荒い仕打ちを受けたり、無茶な仕事を振られたりすることもあります。売り言葉に買い言葉になってしまうと、修復不能な亀裂ができてしまい、仕事がやりづらくなります。職員が仕事相手の院内SEとしては、立場が苦しくなるわけです。
そんなときに「忍耐力」があると、角を立てずにその場をやり過ごせますね。頭に血が上ってもグッと飲み込み、態度に出さず、冷静に受け止める。相手が怒り心頭のときは本当にシステムへの不満があるのか、それともたまたま機嫌が悪くて八つ当たりしているだけなのか。費用をかけてシステムを改修する必要性がどれだけあるのか。それを判断するために、われわれが理性的な応対をすることで、感情的になった相手も頭を冷やし、矛を収めてくれます。
「人に八つ当たりするなんて子どもだろ」と思うでしょうが、大人でも感情のコントロールはなかなか難しいもの。院内SEは医師や看護師からは格下に見られるので、ふてくされた態度を取ると火に油を注いでしまい、「あの態度なんなの」「気に食わないよね」などと言われる羽目になります・・・。
言われたことに耐えるだけの忍耐では、仕事が長続きしないでしょう。それではただの我慢になってしまいます。そうではなく、嫌味のひとつでも言い返したくなる状況で感情を抑え、今後の友好関係を維持するという目的のため、忍耐力が必要と私は考えます。
さて、「ITが苦手な人間でも院内SEはおすすめできるか」ですが、「ITが嫌いでなければ」問題ないと思います。この仕事に求められるスキルは当然ながらIT分野ですが、高いレベルが要求されるわけではないので、苦手であっても業務をこなすうちに習得できるはずです。
病院によって院内SEの役割は三者三様で、大規模なシステムが稼働する病院では開発業務もありますが、多くはシステムベンダーと病院との橋渡し役。IT業界ほどスキルは求められません。システム全体を俯瞰し、現場が求めるシステムを運用・最適化させるのが仕事。
逆に、ITの知識はそれほど求められなくても現場の理解が求められます。医療従事者と対話し、ベンダーとの間を取り持つわけです。
▼院内SEのことを、病院では医療情報技師と呼びます。その役割をこちらの記事で説明しましたので、よろしければ読んでみてください。
ちなみに私もSEでしたが、3年経っても仕事が遅いと叱られるほどSEには向いていませんでした。しかし今では院内SEに就けています。仕事に求められるITスキルは、SE時代に比べずっと低いですね。
この仕事はデスクワークのイメージを持つかもしれませんが、意外とそうでもなく、「パソコン何でも屋」みたいな位置づけ。パソコンに関する問い合わせなら何でも来ますので、そのあたりの覚悟は必要です。
【私が実際に受けた問い合わせ】
- キーボードに栄養剤をこぼしてしまった(パソコンのそばにそんなもの置くな!栄養剤だからキートップがベトベトに・・・)
- ノートパソコンのヒンジが折れた(どう扱ったら折れるんだよ)
- 画面が映らなくなった(電源コード抜けてますけど・・・自分でまず確認しろよ)
- 学会で使うパワポ資料の作成を手伝ってほしい(自分で作りましょうね)
- 待合室のテレビで流すビデオを作って欲しい(制作会社に頼みましょうよ・・・)
こんな応対が実際にあります。それでもキレずに仏の心を持って接するわけです(笑)。これも忍耐のうちですね。
▼この仕事をするうえで役立つプログラミング言語をこちらの記事で紹介しています。併せてご覧ください!
「パソコン詳しいんだからできるでしょ?」という軽いノリで仕事が舞い込みます。なおコミュニケーション力が磨かれると、「他部署や外部委託先に任せたほうがよい」合理的な理由を、角を立てずに説明できるようになります(笑)。仮に自分の技術力では対応できなくても、「自分以外の者がやるべき理由がある」ことが言えれば、苦手な部分をカバーできるわけです。
院内SEに求められる能力は技術力だけではない、と言える理由がここにあります。「やりたくない」「自分には出来ない」と言ってしまうと評価を下げてしまいますので、技術がないことに気付かれずに説明するのがテクニックです。
ただし、「ITが嫌い」ならこの仕事は向いていないと言えます。ITが苦手であっても好きなら自分で調べて解決することができますが、パソコンに関するいろんな仕事が殺到しますので、ITが嫌いなら発狂してしまうでしょう。
では最後の質問に移ります。「コロナになり院内SEの仕事の仕方など変わったか」ですが、「変わっていません」。
現場仕事が主体なので、テレワークは不向き。それどころか人手不足を補うため、受付での窓口対応や事務仕事のヘルプをやらされたほどです。人員を増やしたくても普段から慢性的な人材不足なうえ、コロナの影響で減収になり、設備投資などで経費が重なる中では、積極的な採用が難しい状況です。ほかの病院でも、今いる職員でなんとか回しているところが多いのではないか・・・と察します。
われわれの仕事の仕方に変化はありませんでしたが、明らかに変わったのは医療従事者が参加する学会や採用活動のオンライン化ですね。医療業界では、ホテルやイベント会場を貸し切っての大規模な学会・研修会が盛んに開かれるのですが、コロナ以降は激減し、めっきりオンラインになりました。採用活動においてもオンラインで説明したり面接したりと、目に見えてIT化を感じます。
また、感染防止対策からオンライン診療やオンライン面会のニーズも増加。病院はあらゆる業種の中でもっともIT化が遅れていると言われますが、コロナ禍になってからは急激にIT化の並が押し寄せています。
また、徳島県や大阪の病院がランサムウェアの被害を受け、数億円の損失を被ったり数ヶ月システム停止に陥ったりなど、サイバー攻撃のリスクも表面化してきました。ふつう病院のシステムは閉域網にあるためサイバー攻撃とは無縁とされてきましたが、IT化が進みシステムがインターネットと繋がるようになったため、VPN機器の脆弱性などを突いた攻撃が増加しているのです。
今はどの病院も「うちは大丈夫か!?」と血眼になって、セキュリティ対策の現状を確認したり、サイバー保険に入ったりして防衛策を考えているはずです。
そうした中で、院内SEの果たす役割は今後ますます増えるものと考えています。
▼2022年10月に大阪の病院が受けたサイバー攻撃について、こちらの記事で紹介しています。
医療情報技師が注目する、2022年11月のニュース - 病院の情シスで働く医療情報技師の奮闘記
以上が、ご質問への私なりの回答になります。
病院はいつの時代も必要とされる社会的存在意義の高い職場ですので、将来の安定性に強みがあります。IT業界から病院へ異業種転職するのは勇気がいることですが、院内SEのメリットとデメリットを見極めたうえで、悔いのない決断ができればいいですね。
転職活動がんばってください!
▼院内SEの求人を効率良く探すには、転職サイトの活用がおすすめ。こちらで紹介していますので、併せてチェックしてみてくださいね。
最後に
当ブログでは、病院に勤務するシステムエンジニアの私が、関係法令の改正やパソコンのトラブルシューティングなどをSE目線から紹介しています。
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