先日、政府が書類への押印文化を見直し、印鑑(はんこ)を廃止する検討を行うというニュースが報じられましたね。新型コロナウイルスの感染拡大を防止するためにテレワークが推奨されるなか、決裁を取るためにやむなく出社したという事例が多く見られたそうで(なんとも日本らしい現象ですよね・・・)、これを機にデジタル化を推し進めようとしているようです。
病院業務でももちろん押印は日常茶飯事ですので、無関心ではいられません。請求書や社内決裁など慣習的に行われているものなら実現可能性はありそうですが、病院内SE(システムエンジニア)として、というより医事課経験者として気になるのは処方箋の押印です。なぜなら、押印のない処方箋は無効だからです。電子処方箋の実現については以前から議論はされているものの、実態はなかなか進んでいません。
これだけ日本社会に浸透し切っている文化ですから、直ちに印鑑が廃止されるなんてことはあるはずがなく、やるにしても段階的に経過措置を設けながら進められるはず。しかし、この先どうなるのか?という点については動向を注視すべきと思います。
印鑑を廃止することのメリットは
印鑑を廃止するメリットは、よく言われているのが「決裁スピードの向上」と「印紙税のコスト削減」です。
電子印鑑を利用したことがない方からすると、「押印のような証拠をどうやって残すのか?」がイメージつかないと思います。電子署名というデジタル技術を使うのですが、これに関しては、印鑑廃止を積極的に推進しているGMOインターネット社が提供する電子印鑑ソリューションの製品ページで、わかりやすく解説されていますのでぜひ一度ご覧になってみてください。印鑑証明書や割り印などの代わりをどう果たすのかが理解できるかと思います。
(GMOインターネット社は、コロナ禍の際にいち早くテレワークに移行しテレビでもよく取材されていた会社です)
紙による決裁では、何人もの役員に書類を回覧して印鑑をもらうため、一人でも出張で不在だと文書がそこで止まってしまい、回りきるまでに時間がかかります。この点、電子印鑑ソリューションを使えばインターネットで文書をやり取りできるため時間や場所にとらわれません。ソフトによっては、決裁がどこまで進んだか進捗を確認できるものもあります。
また電子印鑑にすることで、領収書などの課税文書に対して発生する印紙税もかからずコストを削減できるメリットがあります。
文書の改ざん防止に強み
個人的には、上記に挙げたメリット以上に、文書を電子化する強みは改ざん防止にあると考えます。GMOインターネット社の電子印鑑ソリューションで紹介されているように、電子化することで編集の履歴が追える(タイムスタンプ機能)ようになります。最後に手を加えられたのがいつなのかが分かるということは、改ざんを防止したりそれらを発見したりする上で重要な役割を果たします。
先日テレビ番組の「警察24時」で、処方箋をカラーコピーして複製し、2つの薬局で受け取っていた人が逮捕されたシーンが放映されました。そんなことをする人がいるんだと驚愕しましたが、これは私文書の偽造にあたり刑法に抵触します。ドラッグストアなどで買えない向精神薬等の場合は麻薬及び向精神薬取締法にも関わってきます。
くだんの薬局では処方箋の印字がいつもより薄いためおかしいことに気づいたそうですが、巧妙に偽造されてしまえば、膨大な処方箋をさばく日常業務の最中に見抜くのはなかなか難しいはずです。その点、電子化された処方箋であればコピーが入り込む余地がなく、偽造を防ぐことが可能になります。紙にはない、デジタルならではの技術です。
根強い紙文化もある
それでも、やはり根強い紙文化もありますので印鑑廃止には相当な時間がかかるでしょう。東京都ですらコロナ感染者の報告をFAXでやり取りしていると聞きますから、最終的に原本として扱われるのはやはり押印された紙であり、原本としての電子媒体が市民権を得るのは当分先と予想されます。
システムエンジニアでIT寄りの私としても、原本が電子媒体だと「モノとしての価値」が見えにくく、データが原本だと言われても実感が湧きにくいなと正直感じます。[Delete]キーひとつで呆気なく消去できてしまうデータよりも、実体として目に見える書類の方が安心できるんですね。
iPadが登場した頃、斬新さに衝撃を受け電子書籍に没頭し集めていたことがありましたが、液晶画面に疲れたり、いざというときにバッテリーが切れて読めなくなったりして不便さを感じ、結局紙の本に戻ってしまいました。昭和的思考かもしれませんが、人間に馴染むものには限界があるような気がします。
限定された範囲で段階的に
あらゆる文書を電子化し印鑑を廃止するのは難しいですが、処方箋に限って言えば病院と薬局に限った話ですので、待ち時間の短縮や処方箋の改ざん防止のためにも電子化するメリットはあると思います。これから病院でもデジタルトランスフォーメーションが本格化するでしょうから、動向に注目したいと思います。
デジタルトランスフォーメーションに関してはこちらの記事もご参考ください。
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