こんにちは。当ブログをご覧いただき、ありがとうございます。
管理人の白狐(しろぎつね)です。
2021年9月1日、社会インフラのDX(デジタル・トランスフォーメーション)を官民揃って推進することを目的として、デジタル庁が発足しました。
マイナンバーカードの活用や自治体基幹システムの仕様統一などさまざまなデジタル化政策を牽引する、いわばIT化専門の行政機関です。
これまで管轄省庁が各自で対応していたデジタル化政策は足並みが揃わず、法令の改正も低速で、日本は遅々としてデジタル化が進まない一方です。そればかりかコロナ禍では国民への給付金支給や保健所へのコロナ陽性者報告などでは紙やFAXを使う有り様で、速やかな対応ができずデジタル化の遅れを露呈している状況でした。
行政機関がリーダーシップを取るということは、法改正とセットで進めることを意味します。法的根拠のもとにデジタル化が認められることになりますので、デジタル庁発足は病院のみならず社会全体にとって大きな転換点となるはずです。
デジタル庁が何をするのかよく分からないし、病院は関係ないんじゃない?
いやいや、大アリですよ。あなたが知らないだけで。
今回は、デジタル庁発足によって病院がどう変わるかを考えていきます。
目次
院内SEが法改正に着目すべき理由
そもそも、院内SEはエンジニアなんだし法律なんて関係ないよね?
そんなことないですよ。デジタル化を進めるにも法的根拠が必要ですからね。
デジタル化って言ったって、ただ紙をスキャンしてPDFで保存しておけばいいだけでしょ。
いえいえ。紙で保存することが法律で義務付けられている場合もあるんですよ。
例えば法人税の算出元となる帳簿書類は、原則「紙のよる保存」とされています。
長くなりますが、国税庁ホームページの記載を引用します。
(1) 原則的な保存方法
帳簿書類の保存方法は、紙による保存が原則となります。
したがって、電子計算機で作成した帳簿書類についても、原則として電子計算機からアウトプットした紙により保存する必要があります。
(2) 6年目以降のマイクロフィルムによる保存方法
(省略)
(3) 電磁的記録による保存方法
自己が電磁的記録により最初の記録段階から一貫して電子計算機を使用して作成する帳簿書類で一定の要件を満たすものは、紙による保存によらず、サーバ・DVD・CD等に記録した電磁的記録(電子データ)のままで保存することができます。
なお、電磁的記録による保存を行う場合には、あらかじめ所轄税務署長に対して申請書を提出し、承認を受けることが必要です。また、この申請書は、備付けを開始する日の3か月前の日までに提出する必要があります。
「電磁的記録」とは、要するにデータのこと。
データで保存したかったら、事前に税務署に言わなきゃいけないってこと?
そうなんですよ。「原則的な保存方法」が紙で、それ以外は「原則から外れる」ことになるので、いろいろ条件があるんです。
だったら、紙で保存しておこう・・・となるわけね。
一般的なサラリーマンなら、こうした法律をあまり意識したことはないでしょう。なんでも電子化してしまえば便利なのは確かですが、最終的に「紙で保管しなさい」と言われれば、最初から紙で運用したほうがいいね、という結論になっても仕方がないと言えます。
法人税の計算については今は便利なクラウドサービスなどがあり、ソフトが作業を支援してくれますので、例外規定をクリアすればさまざまな面においてデジタル化を進めることはできます。
しかしクリア要件が多ければ多いほどハードルが上がりますので、結局「そこまでしてやる必要はないな」と二の足を踏んでいるのが現状ではないでしょうか。
ちなみに病院が保存しておかなければならない書類は、法律によってこのように決められています。
表を見ただけでお腹いっぱい・・・
私もです。病院が守るべき法律がいかにたくさんあるか、分かりますよね。
病院におけるデジタル化は、単にシステムの導入ではなく、こうした法律の遵守と一体で進めなくてはならないので、院内SEにとっても無関係ではないわけです。
書類はすべてパソコンに入っているから紙は全部捨てちゃえ、というわけにはいかないんだね。
病院への影響は「マイナンバー」と「押印廃止」
デジタル庁が目下掲げている目標は、マイナンバーカードの活用と行政手続きのオンライン化。この2つは当然ながら病院にも大きな影響があります。
マイナンバーカードを使ったオンライン資格確認
これはすでに厚生労働省主導で進んでいる政策。「オンライン資格確認」とは、従来の健康保険証に代わってマイナンバーカードで保険情報を確認できるシステムです。
▼オンライン資格確認については、下記記事で詳細をまとめましたので合わせてお読みください。
マイナンバーカードは認知度こそ高まってきたものの、2021年5月時点でのカード交付率は30%に留まっており、所有率は依然として低いままです。刺激策としてデジタル庁がなにか仕掛けてくるのか、注目すべきと言えます。
はんこ(印鑑)の廃止によるデジタル化
行政手続きのオンライン化とは読んで字の如くで、例えば引っ越したときに必要な転出届などをオンラインで完結できるようにする仕組みです。
従来は、実現にあたって少なくとも2つの障壁がありました。
1つ目は、自治体ごとに基幹システム(戸籍や国民健康保険などの情報を一元管理するシステム)の仕様が異なること。引っ越しの例で言えば、自治体間でネットワーク越しに住民データを受け渡しするのに、システムの仕様が異なれば技術的に連携ができません。
これについては、2022年度から自治体システムの標準化を始めることが決まっていますので、着々と準備が進められていくでしょう。
2つ目は、押印の義務。役所に届け出る書類にはたいてい押印が必要でした。これについても今年4月に可決されたデジタル化法案により、さまざまな書類において押印義務が廃止されることになっています。サラリーマンに身近な書類で言えば、年末調整の書類や婚姻届などがあります。
▼押印の廃止については下記の記事でより詳しく書きましたので、こちらもご覧ください。
押印廃止が与える影響は「処方せん」
ところで、押印廃止は病院にとっても大きな影響を及ぼします。上で登場した、病院で保存が必要な書類の一覧表を見てみましょう。
赤枠のところに注目してください。処方せんの欄に「記名押印又は署名が必要」とあります。医師法・薬剤師法で義務付けられている押印が、今後どう変わるかに注目すべきでしょう。
ちなみに処方せんは署名でも良いわけですが、膨大な患者の処方せんに医師が署名するのは大変。押印で済ませている病院が多いですね。
この押印が仮に廃止されれば、処方せんもオンラインでの受け渡しが可能になるかもしれません。政府は以前から「電子処方箋」化を検討してきましたが、実現には至っていません。
処方箋だって、押印を廃止しちゃえばいいんじゃないの?
処方箋が未だに「署名または記名押印」が必要な理由は、コピーなどの不正利用を防止するためですね。向精神薬などは医師の処方がないと貰えないので、不正を働く者がいるんです。
だから電子処方箋の構想があるわけね。
デジタル化の波は確実に来ている
実はデジタル庁の発足以前から、すでにデジタル化の波は着実に来ています。法人税に関する帳簿書類の一部は、2020年10月に施行された改正電子帳簿保存法により、データのみの保管が認められるようになりました。
▼電子帳簿保存法の改正については下記サイトに詳しい解説がありますので、リンクを貼っておきます。
こうして見ると、今まで多くの日本企業が紙媒体にこだわってきた理由の1つは、法に由来していると考えることができます。足かせとなっていた法が、デジタル庁の采配により近代化を遂げれば、今までの慣習が様変わりするかもしれません。
院内SEとしては、デジタル庁の動向から目が離せませんね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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