※次は疑義解釈ですね・・・。
こんにちは。当ブログをご覧いただき、ありがとうございます。
管理人の白狐(しろぎつね)です。
令和4年度(2022年度)4月に、病院の収入源となる診療報酬が改定されます。診療報酬改定は社会情勢や医療現場の実態を踏まえ2年に1度行われるものであり、病院の収益を左右するものです。
診療報酬の請求に院内のシステムが関わることがあるため、それらを司る医療情報技師にとっても一大イベントとなります。
そこで当ブログでも、診療報酬改定の中身を医療情報技師の観点から見ていきたいと思います。
駆け出しの医療情報技師の方や、システムエンジニアが診療報酬改定をどう見るのかを知りたい方は、参考にして頂ければ幸いです。
2022.2.20 更新を終了しました。
目次
長文記事になりますので、手っ取り早く中身を知りたい方は「個別の改定項目」にジャンプしてください。
- そもそも診療報酬とは?
- 令和4年度(2022年度)改定の基本方針(概要)
- 基本方針の詳細
- 個別改定項目
- Ⅰ-7-⑫ 処方箋様式の見直し(リフィル処方箋の仕組み)
- Ⅱ-5-① 医療機関における ICT を活用した業務の効率化・合理化
- Ⅱ-5-② 医療機関等における事務等の簡素化・効率化
- Ⅱ-5-③ 標準規格の導入に係る取組の推進
- Ⅲ-1-⑫ プログラム医療機器に係る評価の新設
- Ⅲ-2-① 情報通信機器を用いた初診に係る評価の新設
- Ⅲ-2-② 情報通信機器を用いた再診に係る評価の新設及びオンライン診療料の廃止
- Ⅲ-2-③ 情報通信機器を用いた医学管理等に係る評価の見直し
- Ⅲ-2-④ 在宅時医学総合管理料におけるオンライン在宅管理に係る評価の見直し
- Ⅲ-2-⑤ 施設入居時等医学総合管理料におけるオンライン在宅管理に係る評価の新設
- Ⅲ-2-⑧ 情報通信機器等を用いた外来栄養食事指導の評価の見直し
- Ⅲ-2-⑩ 診療録管理体制加算の見直し
- Ⅲ-2-⑬ オンライン資格確認システムを通じた患者情報等の活用に係る評価の新設
- 医療情報技師的、令和4年度(2022年度)診療報酬改定のポイント
そもそも診療報酬とは?
そもそも診療報酬ってなに? という方は、こちらの記事で解説していますのでまずはそちらをご覧くださいね。
前提として、診療報酬の中身を理解するには医療事務の知識が必須です。そのため、医療事務の経験がない方にとっては理解が困難です。
そんな方には、医療事務の資格を取るのがおすすめ。
通学形式(スクーリング)なら時間もお金もかかりますが、今は通信講座が充実しています。低コスト・短期間で取得できますし、受講するコースによっては国の補助金も受けられます。
こちらの記事で詳しく解説していますので、興味があればぜひご覧ください。
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さて参考にする情報は、もちろん厚生労働省のホームページ。
令和4年度診療報酬のまとめページがこちら。
改定内容の具体的な資料は、厚生労働省の諮問機関である中央社会保険医療協議会(通称、中医協)のページにアップされますので、こちらをチェックしていきます。
中央社会保険医療協議会(中央社会保険医療協議会総会) |厚生労働省
どこをどう見ればいいか分からないんだけど・・・。
分かりづらいですよね。表の「資料等」の中にある、PDFを見ていけばいいんです。
診療報酬の改定内容は、中医協によって何度も揉まれて固まっていきます。完成形がある日突然発表されるのではなく、審議で使われる資料が上記ページに公開されます。
中身が固まるのがだいたい3月頃なのですが、改定が実施されるのが4月なので、決まってから動き出すのでは対応が遅れてしまいます。
このため、診療報酬の情報が出始めたらなるべく早めに確認し、どんなふうに改定されるのかをあらかじめ予習しておくのがおすすめです。
分厚い「医科点数表の解釈」と格闘するのもよいですが、テキスト検索できる「しろぼんねっと」は、お目当ての診療報酬を調べたいときに大変重宝します。
お気に入りに入れておいて損はないので、ぜひ登録してみてください。
こちらの記事で特集していますので、興味があれば併せてご覧くださいね。
令和4年度(2022年度)改定の基本方針(概要)
まずは基本方針がどんなものか見ていきます。
システムが絡みそうな部分に赤線を付けてみました。
大きいところでは、オンライン診療の要件見直しではないでしょうか。
従来、オンライン診療は再診時のみ認められており、事前の計画書作成など多くの要件がありました。ところが今は新型コロナウイルス感染予防のために、時限措置として要件が緩和され、初診でも認められています。
当面は継続的に新型コロナに対応しなければならない点を考慮し、恒久的な対処が取られることになります。
また、病院内での労務管理や業務の効率化にICTを使う、といったところが重点課題とされています。
医療現場の労働環境改善については以前から指摘されていましたが、コロナ禍により世間一般の関心が高まったように感じられますね。病院は慢性的に人材不足な業界ですので、ICTを使った取り組みをすることで病院の収益が上がり、医療従事者への利益還元が高まることが期待されます。
ちなみに今回の改定で、看護師の処遇改善のために診療報酬が上がることが決まりました。
それから、気になるのは「リフィル処方箋」。聞き慣れない用語ですが、「使いまわしできる処方箋」の意味です。
どういうこと・・・?
現行制度では、医師が発行した処方箋は発行日から4日までが有効期限。それ以降は、処方箋がただの紙切れになってしまうんです。
薬局に行っても薬をもらえないってことね。
処方箋を使い回せば病院に行かずに済むので、その効果を試すらしいです。
システムには直接関係しそうにないですが、いち患者としての目線で見ると興味深いですね。
基本方針の詳細
2022年1月12日に、「令和4年度診療報酬改定に係るこれまでの議論の整理(案)」が掲載されましたので見ていきます。
▼ソースはこちら。赤枠のページに入ると、PDFの資料があります。
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000878512.pdf
Ⅰ 新型コロナウイルス感染症等にも対応できる効率的・効果的で質の高い医療提供体制の構築
Ⅰ-1 当面、継続的な対応が見込まれる新型コロナウイルス感染症への対応
(1) 新型コロナウイルス感染症患者等に対する診療等に係る外来、入院、在宅等における特例的な評価並びに新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえて講じてきた患者及び利用者の診療実績等の要件に係る特例的な措置を引き続き実施する。また、令和4年度診療報酬改定において、新たな改定項目ごとに経過措置を設けることから、令和2年度診療報酬改定における経過措置を終了する。
前回(令和2年度診療報酬改定)で設けられた、時限的な特例措置を引き続き実施するようです。ただし前回とは異なる内容にするよ、とのこと。
これ以上の情報については続報待ちです。
Ⅱ 安心・安全で質の高い医療の実現のための医師等の働き方改革等の推進
Ⅱ-5 業務の効率化に資する ICT の利活用の推進、その他長時間労働などの厳しい勤務環境の改善に向けての取組の評価
(1) 医療機関における業務の効率化・合理化の観点から、カンファレンスの実施等の要件を見直す。
(2) 医療機関等における業務の効率化及び医療従事者の事務負担軽減を推進する観点から、施設基準の届出及びレセプト請求に係る事務等を見直す。
(3) 医療機関間等の情報共有及び連携が効率的・効果的に行われるよう、標準規格の導入に係る取組を推進する観点から、診療録管理体制加算について、定例報告における報告内容を見直す。
前回改定でも盛り込まれていたように、カンファレンスの実施要件の緩和、つまりオンラインで実施することが認められるようになると思います。
これまで対面での開催が要件だったものが、オンラインを認めて業務効率を上げようとするものです。
コロナ禍ではZoomとかオンラインが一気に普及したからね。
オンライン化はぜひ推進してほしいですよね。
Ⅲ 患者・国民にとって身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現
Ⅲ-2 医療における ICT の利活用・デジタル化への対応
(1) 「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の見直しを踏まえ、情報通信機器を用いた場合の初診について、新たな評価を行う。
(2) 新型コロナウイルス感染症に係る特例的な措置における実態も踏まえ、情報通信機器を用いた場合の再診について、要件及び評価を見直す。
(3) 新型コロナウイルス感染症に係る特例的な措置における実態も踏まえ、情報通信機器を用いた場合の医学管理等について、要件及び評価を見直す。
(4) 新型コロナウイルス感染症に係る特例的な措置における実態も踏まえ、在宅医療における情報通信機器を用いた医学管理について、要件及び評価を見直す。
(5) 施設において療養を行っている患者に対する情報通信機器を用いた医学管理について、新たな評価を行う。
(6) 質の高い在宅歯科医療を提供する観点から、訪問歯科衛生指導時に情報通信機器を活用した場合について、新たな評価を行う。
(7) オンライン服薬指導に係る医薬品医療機器等法のルールの見直しを踏まえ、外来患者及び在宅患者に対する情報通信機器を用いた服薬指導等について、要件及び評価を見直す。(8) 栄養食事指導の実施を更に推進する観点から、初回から情報通信機器等を用いた場合の栄養食事指導について評価を見直す。
(9) データに基づくアウトカム評価を推進する観点から、データ提出加算に係る届出を要件とする入院料の範囲を拡大する。
(10)適切な診療記録の管理を推進する観点から、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を踏まえ、診療録管理体制加算について非常時に備えたサイバーセキュリティ対策の整備に係る要件を見直す。
(11)医療機関間等の情報共有及び連携が効率的・効果的に行われるよう、標準規格の導入に係る取組を推進する観点から、診療録管理体制加算について、定例報告における報告内容を見直す。(Ⅱ-5(3)再掲)
(12)外来医療、在宅医療及びリハビリテーション医療について、データに基づく適切な評価を推進する観点から、生活習慣病管理料、在宅時医学総合管理料、疾患別リハビリテーション料等を算定する場合におけるデータ提出に係る新たな評価を行う。
(13)オンライン資格確認システムの活用により、診断及び治療等の質の向上を図る観点から、新たな評価を行う。
うぇ~盛りだくさん・・・。
文字だらけでうんざりでしょうが、ゆっくり見ていきましょう。
「情報通信機器を用いた」という表現がたくさんありますが、要するにオンラインのことです。オンラインでの初診・再診、在宅医療、医学管理等の要件を見直したり、新たに評価項目を設けるということになります。
これはICT化を進めるということですから、真新しい内容ではないですね。
(10)は、診療録管理体制加算の要件にサイバーセキュリティ対策を盛り込むということ。
つい最近も発生したように、近年はランサムウェアをはじめとした病院へのサイバー攻撃が増加しており、電子カルテに障害が起きて診療が止まるなど実害も出てきています。もはや国としても黙っていられない有害事象であるため、診療報酬の算定要件として義務付けるということでしょう。
つまり、診療報酬で定めるサイバーセキュリティ対策を取らないと病院の減収につながることを意味しますので、どんな内容になるのか注視する必要がありますね。
(13)は、オンライン資格確認システム、つまりマイナンバーを使った保険確認を導入することが報酬につながるということです。
医療情報技師の方であればご存知かと思いますが、オンライン資格確認システムの運用にはベンダーへの保守費用など維持費がかかります(導入には補助金が付きます)。診断や医療の質向上につながる取り組みはきっちり診療報酬として評価する、ということですね。
オンライン資格確認の導入率は全国的にもまだまだ低く、本格的な普及はこれからです。これが普及の起爆剤になればよいのですが。
個別改定項目
記事中「●●点」となっているのは、資料の公開時点でまだ点数が決められていないことを意味しています。
【2022/02/09追記】
点数が発表されましたので、追加しました。
【2022/02/20追記】
「標準規格の導入に係る取組の推進」「プログラム医療機器」について追記しました。
個別の改定項目を見ていきます。
参考にする資料は、厚労省のページにある「個別改定項目について」と書かれた資料になります。
500ページもある資料なので、読むには根気と時間が必要です。ゆっくり読み進めていきましょう。
Ⅰ-7-⑫ 処方箋様式の見直し(リフィル処方箋の仕組み)
リフィル処方箋について、具体的な取扱いを明確にするとともに、処方箋様式をリフィル処方箋に対応可能な様式に変更する(別紙)。
[対象患者]
(1)医師の処方により、薬剤師による服薬管理の下、一定期間内に処方箋の反復利用が可能である患者
<以下、筆者略>
リフィル処方箋(処方箋の使い回し)が認められました。
病院では、診察せずに薬だけを処方することは認められていないため、これまでは薬が欲しい場合は必ず受診する必要がありました。また、処方箋は薬局で薬と引き換えに渡しますから、当然使い回すこともできませんでした。
いつもの薬が欲しいだけなのに、毎度長い時間待たされる・・・なんてことはよくあるよね。
そうなんです。患者の負担軽減につながりますよね。
症状が安定している患者については、再診業務の効率化を目的として、3回を上限として処方箋を使い回しできるようになります。
具体的には、次のような流れになります。
①医師がリフィル可能かどうかを判断し、処方箋にチェックを入れる
②薬局では、薬を渡すたびに調剤日と、次回の調剤予定日を処方箋に記入する
③調剤の回数が上限に達したら、薬局にて処方箋を保管する
▼厚労省の資料から引用。変更部分を赤枠で示しました。
処方箋の書式が変わるため、当然ながら処方箋を発行するシステムの改修が必要になります。医療情報技師の出番ですね。
Ⅱ-5-① 医療機関における ICT を活用した業務の効率化・合理化
医療従事者等により実施されるカンファレンス等について、ビデオ通話が可能な機器を用いて、対面によらない方法で実施する場合の入退院支援加算等の要件を緩和する。
【入退院支援加算】
[施設基準]
(5) (4)に規定する連携機関の職員との年3回の面会は、リアルタイムでの画像を介したコミュニケーション(ビデオ通話)が可能な機器を用いて実施しても差し支えない。なお、患者の個人情報の取扱いについては、第21の1の(10)の例による。
<以下、筆者略>
入退院支援加算の施設基準は、今までは「原則対面で年3回カンファレンスを実施し、うち1回だけはビデオ通話も認める」でした。入退院支援加算以外の加算も、カンファレンスを開催することが要件となっている場合はほとんどが対面とされていたのです。
オンラインでのやり方は、あくまで対面が難しい場合の補助手段という位置付けでした。
それが、今回の改定により、ビデオ通話が対面と同等にみなされる、ということになります。3回をすべてビデオ通話にしてもよいわけです。
かなり要件が緩和されたわけだね。
Ⅱ-5-② 医療機関等における事務等の簡素化・効率化
3.レセプトの摘要欄に記載を求めている事項のうち、薬剤等について選択式記載に変更する。また、一部の診療行為について、レセプト請求時にあらかじめ特定の検査値の記載を求めることにより、審査支払機関の審査におけるレセプトの返戻による医療機関の再請求に係る事務負担軽減を図る。
レセプト請求をしたことがある方は分かると思いますが、薬剤を請求する上で、特定のコメントを摘要欄に記載しなければ査定・返戻となるケースがあります。
例えば、通常の用法や投与期間を超えて処方する場合、「一般的にはこんなに薬剤使わなくていいはずだから、必要な理由を書け」というわけです。
そのコメントを今までは医事会計システムに手打ちしていたのですが、医療事務の職員が手打ちするので時間と手間が掛かります。そうした事務作業を省いて効率化するために、あらかじめ決められたコメントから選べるようにするということでしょう。
なるほど。確かにその方が楽だよね。
いちいち文言を考えたり手打ちする必要がないので、業務の効率化になりますね。
Ⅱ-5-③ 標準規格の導入に係る取組の推進
診療録管理体制加算に係る定例報告において、電子カルテの導入状況及び HL7 International によって作成された医療情報交換の次世代標準フレームワークである HL7 FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)の導入状況について報告を求めることとする。
【診療録管理体制加算(入院初日)】
[施設基準]
3 届出に関する事項
(1) 診療録管理体制加算の施設基準に係る届出は、別添7の様式17を用いること。
(2) 毎年7月において、標準規格の導入に係る取組状況等について、別添7の様式により届け出ること。
後述する「Ⅲ-2-⑩」で診療録管理体制加算の改定について触れますが、その加算要件として、新たに「標準規格の導入状況の報告」が毎年求められるようになります。
電子カルテにおける標準規格の導入が進めば、相互の医療情報の交換が容易になります。ベンダー独自の規格で作られたシステムの場合、互換性や拡張性に乏しく、いわゆるベンダーロックインに陥りがち。
ベンダーロックインとは、特定のベンダーが納めるシステムに依存してしまい、そこから抜け出せない状況のこと。
電子カルテはシステムが非常に複雑で規模も大きいため、一度導入すると他ベンダーに乗り換えたり、そのシステムを使用中止したりすることが難しいという事情があります。また、それぞれの医療機関特有の作り込みも発生することから、フレキシブルにシステムを変えるのが困難。
しかしそうなると独自仕様の電子カルテが氾濫することになり、医療情報の円滑な交換や、ベンダー同士の適正な競争の妨げとなります。そこで国としては、電子カルテにおける標準規格の導入を推進したいと考えているわけです。
標準規格の導入状況を報告させることで、まずは現状を把握するということでしょう。
Ⅲ-1-⑫ プログラム医療機器に係る評価の新設
第1 基本的な考え方
プログラム医療機器の評価を明確化する観点から、医科診療報酬点数表の医学管理等の部に、プログラム医療機器を使用した場合の評価に係る節を新設する。
第2 具体的な内容
医科診療報酬点数表の第2章第1部(医学管理等)に、プログラム医療機器等医学管理加算及び特定保険医療材料料の節を新設する。
この改定は、医療の世界を「治療」から「予防」へ大きくシフトさせる布石である、と私は感じています。
プログラム医療機器ってなに?
Apple Watch(アップルウォッチ)の心電図測定アプリみたいな、家庭で使える医療向けプログラムのことです。
前提として、医療向けの機器はその結果が人体の健康や生命に影響を及ぼす可能性があるため、国の認可を受けたものでなければ使用できない決まりとなっています。認可にあたっては、公的機関による治験やデータ収集、効果検証のプロセスを経るわけです。
民間企業が、効果の怪しい医療機器を好き勝手に販売できたら怖いからね。
しかし最近では、Apple Watchに代表されるように、デジタルヘルス機器やスマートフォンのアプリ(=ソフトウェアプログラム)で健康管理をするのがトレンドになっています。そしてApple Watchでも、アプリで心電図を計測することが可能になりました。
Apple Watchの心電図アプリが認可されたのは2020年9月4日ですので、最近の話なんですね。
民間企業が提供するソフトウェアプログラムが医療機器としての領域に踏み込んでおり、これを活用した診療も実際行われてきています。
自分で心電図を計測できるなら何度も病院に行かずに済むし、自分でやりたい!って人もいるよね。
しかし今までは診療報酬に定めがなかったため、プログラム医療機器を使った治療を行っても、医療機関に特別な報酬はありませんでした。
そこで今回の改定により、「プログラム医療機器の評価を明確化する」ために、新たに定めが設けられたわけです。
「節」が新設されたので、診療報酬全体に大きな変更が加えられたことになります。
プログラム医療機器は家庭用のデバイスで使えるものなので、普段の健康管理にも役立ちます。つまり、治療だけでなく病気の予防にも活用できるわけです。
周知のとおり今の日本経済は膨大な社会保障費に圧迫されており、なかでも医療費が占める割合が特に大きくなっています。そのため国は以前から、医療を「治療」から「予防」へとシフトさせるよう舵を切っており、プログラム医療機器が診療報酬に組み込まれたのもその布石と言えます。
もしプログラム医療機器を使った診療が診療報酬で高い評価を得られるのなら、医療機関としても積極的に使っていくようになるはずです。
個人が日ごろから健康管理を自ら行い、病気や怪我を防ぐようにするのが当たり前の時代になる・・・のかもしれません。
今回の改定では節が新設されただけなので、具体的な中身については今後追加されていくことになります。今後は、プログラム医療機器の動向から目が離せないですね。
Ⅲ-2-① 情報通信機器を用いた初診に係る評価の新設
初診料について、情報通信機器を用いて初診を行った場合の評価を新設する。
(新) 初診料(情報通信機器を用いた場合) 251点
<以下、筆者略>
ついに、初診からのオンライン診療が恒久的に認められました。
これまでのオンライン診療は、診療報酬上は「オンライン診療料」として評価され、「再診時のみ」「3ヶ月連続では算定できない」「対面診療を行った月には同時算定できない」「事前の診療計画が必要」など要件が多く、算定するにはハードルが高いものでした。
コロナ禍では特例として初診にも認められていましたが、ついに初診料の仲間入りをすることになります。
対面の「初診料」と同列の扱いになるので、医療事務としても算定要件の確認がカンタンになりますね。
(7)情報通信機器を用いた診療を行う際は、予約に基づく診察による特別の料金の徴収はできない。
(8)情報通信機器を用いた診療を行う際の情報通信機器の運用に要する費用については、療養の給付と直接関係ないサービス等の費用として別途徴収できる。
(7)の意味がよく分かりませんが、例えば「オンライン予約にかかる手数料」みたいなものを病院が徴収することは不可、ということでしょうか?
(8)については、オンライン診療システムの運用にかかる費用について、電話代などと同類の扱いとして徴収できる、ということでしょう。
対面での初診料は288点ですので、対等な評価ではないものの、かなり評価が上がったなと個人的には思います。
Ⅲ-2-② 情報通信機器を用いた再診に係る評価の新設及びオンライン診療料の廃止
再診料について、情報通信機器を用いて再診を行った場合の評価を新設するとともに、オンライン診療料を廃止する。
(新) 再診料(情報通信機器を用いた場合) 73点
外来診療料(情報通信機器を用いた場合) 73点
<以下、筆者略>
再診料および外来診療料についても、初診料と同様の扱いです。
従来のオンライン診療は再診時のみ認められていたので、この項目に「オンライン診療料の廃止」と書かれているわけですね。
対面での再診料も73点ですから、再診においては対面とオンラインが対等の評価となりました。
これで、だいぶオンライン診療の敷居が下がったように思います。
Ⅲ-2-③ 情報通信機器を用いた医学管理等に係る評価の見直し
1.検査料等が包括されている地域包括診療料、認知症地域包括診療料及び生活習慣病管理料について、情報通信機器を用いた場合の評価対象から除外する。
平たく言うと、「これまで医学管理をオンラインで行った場合は評価を下げていたが、それをやめる」ということになります。
意味が分かりにくいと思いますので、例を上げて見てみましょう。
例えば、現行では「地域包括診療料」は要件を満たせば1660点が算定できます。しかし、それをオンラインで行った場合には、「地域包括診療料(情報通信機器を用いた場合)として、月1回に限り100点」と決められていました。著しく点数が下がっていたのです。
それならなかなか手は出ないね・・・。
オンラインの機器を揃えるだけでも導入費や維持費がかかるので、点数が低かったら算定は難しいですよね。
改定後は、オンラインで実施しても「地域包括診療料」が1660点算定できるようになります。
2.ウイルス疾患指導料、皮膚科特定疾患指導管理料、小児悪性腫瘍患者指導管理料、がん性疼痛緩和指導管理料、がん患者指導管理料、外来緩和ケア管理料、移植後患者指導管理料、腎代替療法指導管理料、乳幼児育児栄養指導料、療養・就労両立支援指導料、がん治療連携計画策定料2、外来がん患者在宅連携指導料、肝炎インターフェロン治療計画料及び薬剤総合評価調整管理料について、情報通信機器を用いた場合の評価の対象に追加する。
【小児悪性腫瘍患者指導管理料】
[算定要件]
注5 別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関において、小児悪性腫瘍患者指導管理料を算定すべき医学管理を情報通信機器を用いて行った場合は、所定点数に代えて、小児悪性腫瘍患者指導管理料(情報通信機器を用いた場合)として、479点を算定する。
<以下、筆者略>
逆にこれらの医学管理料については、オンラインで行った場合の評価を別に定める、ということになります。
Ⅲ-2-④ 在宅時医学総合管理料におけるオンライン在宅管理に係る評価の見直し
在宅時医学総合管理料について、訪問による対面診療と情報通信機器を用いた診療を組み合わせて実施した場合の評価を新設するとともに、オンライン在宅管理料を廃止する。
【在宅時医学総合管理料】
1 在宅療養支援診療所又は在宅療養支援病院であって別に厚生労働大臣が定めるものの場合
イ 病床を有する場合
(3) 月2回以上訪問診療等を行っている場合であって、うち1回以上情報通信機器を用いた診療を行っている場合((1)及び(2)の場合を除く。)
① 単一建物診療患者が1人の場合 3029点
② 単一建物診療患者が2人以上9人以下の場合 1685点
③ ①及び②以外の場合880点
<以下、筆者略>
まず、「オンライン在宅管理料」が何かを見ていきます。これは、「在宅時医学総合管理料」の加算点数です。
【在宅時医学総合管理料】
<筆者略>
[算定要件]
注 12 1から3までにおいて、別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関において、別に厚生労働大臣が定める患者に対して、情報通信機器を用いた診察(訪問診療と同日に行う場合を除く。)による医学管理を行っている場合に、オンライン在宅管理料としてそれぞれ、100 点を所定点数に加えて算定できる。
訪問診療と別の日にオンラインで医学管理を行った場合には、オンライン在宅管理料として100点を、在宅時医学総合管理料に加算できるというもの。
「注12」に定められているだけなので、どちらかと言うと「おまけ」的な位置づけでした。
それが改定により「おまけ」程度に済まさず、オンラインで行った場合を対面の場合と同様に評価する、ということになります。
Ⅲ-2-⑤ 施設入居時等医学総合管理料におけるオンライン在宅管理に係る評価の新設
施設入居時等医学総合管理料について、訪問による対面診療と情報通信機器を用いた診療を組み合わせて実施した場合の評価を新設する。
【施設入居時等医学総合管理料】
1 在宅療養支援診療所又は在宅療養支援病院であって別に厚生労働大臣が定めるものの場合
イ 病床を有する場合
(3) 月2回以上訪問診療等を行っている場合であって、うち1回以上情報通信機器を用いた診療を行っている場合((1)及び(2)の場合を除く。)
① 単一建物診療患者が1人の場合 2249点
② 単一建物診療患者が2人以上9人以下の場合 1265点
③ ①及び②以外の場合880点
<以下、筆者略>
「施設入居時等医学総合管理料」については、上記の「在宅時医学総合管理料」とは違ってオンラインで行った場合の評価がありませんでしたので、新たに評価を加えるということです。
Ⅲ-2-⑧ 情報通信機器等を用いた外来栄養食事指導の評価の見直し
外来栄養食事指導料1及び2について、初回から情報通信機器等を用いて栄養食事指導を行った場合の評価を見直す。
【外来栄養食事指導料】
イ 外来栄養食事指導料1
(1) 初回
① 対面で行った場合 260点
② 情報通信機器等を用いた場合 235点
(2) 2回目以降
① 対面で行った場合 200点
② 情報通信機器等を用いた場合 180点
<以下、著者略>
外来栄養食事指導料をオンラインで行う場合、従来は2回目以降に認められ、初回は対面で行う必要がありました。これが、初回からでも認められるようになります。
字面を追うのがキツくなってきたんだが・・・
これが、診療報酬改定を追う作業です。一気に読もうとしても無理なので、休み休み解読していきましょう。
Ⅲ-2-⑩ 診療録管理体制加算の見直し
個人的にはこれが一番、医療情報技師としてインパクトの大きい改定かなと思います。
非常時に備えたサイバーセキュリティ対策が講じられるよう、許可病床数が 400 床以上の保険医療機関について、医療情報システム安全管理責任者の配置及び院内研修の実施を診療録管理体制加算の要件に加える。
また、医療情報システムのバックアップ体制の確保が望ましいことを要件に加えるとともに、定例報告において、当該体制の確保状況について報告を求めることとする。
【診療録管理体制加算】
[施設基準]
1 診療録管理体制加算1に関する施設基準
(1) (略)
(2) 中央病歴管理室が設置されており、厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に準拠した体制であること。
(3)~(9) (略)
(10) 許可病床数が400床以上の保険医療機関については、厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に基づき、専任の医療情報システム安全管理責任者を配置すること。また、当該責任者は、職員を対象として、少なくとも年1回程度、定期的に必要な情報セキュリティに関する研修を行っていること。
さらに、非常時に備えた医療情報システムのバックアップ体制を確保することが望ましい。ただし、令和4年3月31日において、現に当該加算に係る届出を行っている保険医療機関(許可病床数が400床以上のものに限る。)については、令和5年3月31日までの間、当該基準を満たしているものとみなす。
2 診療録管理体制加算2に関する施設基準
(1) 1の(1)から(4)まで、(9)及び(10)を満たしていること。
(2)~(5) (略)
3 届出に関する事項
(1) 診療録管理体制加算の施設基準に係る届出は、別添7の様式17を用いること。
(2) 毎年7月において、医療情報システムのバックアップ体制の確保状況等について、別添7の様式●により届け出ること。
400床以上の病院が診療録管理体制加算を算定するには、
①専任の医療情報システム安全管理責任者を配置すること
②少なくとも年1回程度、定期的に必要な情報セキュリティに関する研修を行う
ことが新たに要件となり、より厳格化されたことになります。
病院への度重なるサイバー攻撃を受けての措置でしょう。最近でも実際に病院がランサムウェアに感染して診療が止まる実害が出ていますので、算定要件に加えることでサイバー対策の強化を促すものと思われます。
加えて、医療情報システムのバックアップ体制の状況を毎年7月に、所定の様式で報告させるようです。病院として、しっかり体制を整えないといけないですね。
当然、これらの対策を中心になって行うのは医療情報技師になります。
Ⅲ-2-⑬ オンライン資格確認システムを通じた患者情報等の活用に係る評価の新設
1.オンライン資格確認システムを通じて患者の薬剤情報又は特定健診情報等を取得し、当該情報を活用して診療等を実施することに係る評価を新設する。
(新) 初診料
注14 電子的保健医療情報活用加算 7点
再診料
注18 電子的保健医療情報活用加算 4点
外来診療料
注10 電子的保健医療情報活用加算 4点
<以下、筆者略>
「オンライン資格確認システム」とは、マイナンバーカードを健康保険証として使うシステムのこと。使いみちは保険確認だけでなく、患者の同意を得ることで薬剤情報や特定健診の情報を閲覧することができます。
薬剤情報は、これまでは処方薬を記したシールをお薬手帳に貼って、本人が管理していました。病院では、他院で処方された薬を知るには本人に聞いたりお薬手帳を見たりしていましたが、「オンライン資格確認システム」を使えば、それらを簡単に閲覧することができるわけです。
特定健診の情報に関しても、他院で受診した結果を知りたければ、判定結果が記載された用紙を持ってきてもらうしかありませんでしたが、オンラインで閲覧可能になります。
こうした情報を活用して診療の質を向上させることを評価し、新たに点数が設けられる形です。
「オンライン資格確認システム」はまだ普及率が低いので、点数次第では起爆剤になるかも?と思いましたが・・・この点数だと微妙ですね。正直なところ、あまり評価されているとは思えない点数です。
薬剤情報をオンラインで見るって言っても、どうやって?
マイナンバーに紐付いたレセプト情報を引っ張ってくるんです。
オンライン資格確認については、下記の記事で取り上げています。仕組みをご存じない方は、参考にして頂ければと思います。
医療情報技師的、令和4年度(2022年度)診療報酬改定のポイント
以上、長文記事となりましたが、医療情報技師の視点から令和4年度(2022年度)診療報酬改定を見てきました。
最後に、個人的に「ここだけは知っておきたい」と思うポイントだけをまとめておきます。
最後に
当ブログでは、病院に勤務するシステムエンジニアの私が、関係法令の改正やパソコンのトラブルシューティングなどをSE目線から紹介しています。
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