前回までの記事で、病院のシステムエンジニア(以下、病院内SE)の仕事内容、必要な資格、待遇についてお話しました。どんな仕事をし、いくらくらいの収入が得られるのかは概ね掴んで頂けたと思いますが、転職に踏み切る上ではどんなキャリアアップが図れるのかも重要ですよね。
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年齢が40~50代であれば能力開発も一段落し豊富な経験と知識で勝負できるでしょうが、20~30代ならばどんな仕事に就き・どんな能力を身に着けるのかを見据えた転職をしていかなければ、若さで多くを吸収できる大切な時間を浪費してしまいます。
そこで今回は、病院内SEのキャリアアップについてお話したいと思います。
スキルアップは自己責任
冒頭から現実的な話をしてしまいますが、病院内SEのスキルアップは自己責任で行うものと考えて下さい。「自己責任」の意味は、次のとおりです。
- 必要なスキルは誰も教えてくれない
- 必ずしも高度な知識が求められるわけではない
- 必ずしも資格が評価されるわけではない
順に説明していきます。
1.必要なスキルは誰も教えてくれない
結論から言うと、必要なスキルは自分で考え、勉強しなければならないということです。
病院内SEの仕事は、過去記事に書いたとおりシステムを安定稼働させることです。情報管理室などの独立した部署があり、教育体制が敷かれ採用時に丁寧に指導してくれる素晴らしい病院もありますが、多くはそんな余裕はなく、パソコンに詳しい事務方が病院内SEを兼務していたり、一人情シスとして部屋の一角で作業したりしているところが多いでしょう。余談ですが、先日放送終了したテレビドラマ「病院の治しかた」でSEがちょろっと出ていましたが、あんな感じです。
システムの安定稼働とは、すなわちダウンタイムをなくす・可能な限り短くすること。例えばPCの画面が急に映らなくなった、程度のトラブルなら対処は簡単ですが、電子カルテで医師が指示を出したのに帳票が出ない、会計システムに送信されない、といった場合には障害を切り分け、どこで問題が起きているのかを突き止めなければなりません。各システムの仕様・機能を熟知していることが必要です。
サーバに障害がある場合は、ベンダーに連絡し対処してもらうことがほとんどですが、間に合わない場合は自分で管理端末を立ち上げ、Windowsのイベントログを見てどんなエラーが吐かれているか見たり、pingやtracertを飛ばしてネットワークの疎通確認をしたりもします。
プリンタの給紙がうまくいかないときなども基本的には修理業者に来て直してもらいますが、それまでは応急処置が必要です。内部を開けてトナーの詰まりや部品の摩耗具合を見ることもありますし、予備機と交換してIPアドレスやサブネットマスクの設定、システムでの印刷余白設定をして凌ぐこともあります。「自分はプログラミングのことは分かるけどハードは分からない」という訳にはいきません。
こういった知識は「こういうときはこうして解決するよ」と教えてくれるわけではないので、経験から学んだり、参考書を読んだりして障害対応のノウハウを身に着けていくことになります。「誰も教えてくれない」というより「教えられる人が誰もいない」と言ったほうが正確かもしれませんね。
2.必ずしも高度な知識が求められるわけではない
病院内SEに求められるスキルは、実はそれほど高度なものではありません。VBAやVBスクリプトなどでちょっとしたプログラムを作ることはあっても、基本的に院内で稼働するシステムはベンダーが納品しますのでしっかりサポートが受けられますし、ベンダーの社員が駆けつけて対処してくれたりもします。責任分界点が分かりにくくなるため、ベンダーとしても下手に触ってほしくないのだと思います。
では何をするのかというと、ベンダーに連絡して修理の日程を調整したり、現場のニーズを汲み上げて改善要望を出したりといった橋渡し役がメイン。このため、IT企業勤務と比べるとエンジニアとしてスキルアップはあまり見込めないと言えます。
この「橋渡し役」が、人(特にエンジニア)によっては意外と大変かもしれません。というのも、接客業のような側面があるからです。
例えば電子カルテの操作性について医師からクレームが来たとき、「なぜこんな簡単なことができないんだ」と物凄い剣幕で怒られることがあります。命を扱う現場ですので医療スタッフはピリピリしていることが多く、そんなところに呼ばれて出向くのは気が滅入ることもあります。自分に言われてもその場ではどうしようもないので、改善の検討を伝えてなだめるしかありません。「自分のせいでもないのになぜこんな仕打ちを受けなければならないんだ」と思うときもありますが、そこは病院内SEのさだめと割り切るしかないですね。
医療スタッフも皆人間ですから、感情的になり我々と火花を飛ばすこともあります。しかし病院内SEの使命は医療現場を下支えすることですから、どんな要求でも一旦は冷静に受け止めて前向きに検討していかなければならないのです。
3.必ずしも資格が評価されるわけではない
資格編でも触れたように、病院は資格社会です。病院内SEであれば医療情報技師の取得が望ましいのですが、それも取ったからといって必ずしも評価されるわけではありません。国家資格である基本情報技術者や応用情報技術者を持っていても、まず誰も知りません。医師や看護師といった有資格者集団の中では弱い存在ですので、評価して欲しい気持ちは山々ですがあまり期待はしない方がよいでしょう。
ただし資格の勉強がシステム管理の業務に活きることは勿論あるでしょうから、勉強は積極的にすべきと思います。
以上、病院内SEのキャリアアップについて生々しい話も交えながら現実的なお話をしました。
病院では、主に看護師やリハビリ療法士の人たちに「キャリアラダー」(ラダーは階段の意味)という教育制度が整えられ、将来に向けていつ・どんな段取りを経て・どんな能力が身に着くのかを示しているところもあります。大病院以外は病院内SEにそんな道は用意されていないので、医療情報技師であれば学会に出席して知見を得たり、CCNAなどのエンジニア系の資格を取って勉強したりして自己管理していくしかありません。
私は、病院内SEの仕事はむしろ「自分のやりたいようにやれる」世界だと受け止めています。「自分に教えてくれる人がいない=病院で一番ITに詳しい者が自分」なわけですから、入れてみたいシステムがあれば提案書を作って稟議にかけてもいいですし、業務改善の相談を受けたらVBAでマクロを作ってあげるも良し、有償のソフトを紹介するも良しです。
自分の仕事を自分で決められる裁量があると思えば、これほど楽しい仕事はありません。
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