当ブログでもかねてよりオンライン診療について触れてきましたが、ついに政府が初診患者へのオンライン診療を許可することを正式に決定しました。
原稿執筆時点(4月10日)では厚労省のホームページにこれに関する事務連絡や通達が見受けられませんので、実際に診療するのは掲載を待ってからの方がよいでしょう。ただ、オンライン診療に向けての体制や設備作りについては検討しておいた方が良さそうです。
まずは「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を参考に
導入にあたって指針にすべきは、もちろん厚労省発の資料ですね。以前から厚労省では「情報通信機器を用いた診療に関するガイドライン作成検討会」という作業部会が動いており、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を発行しています。
設備と言ってもウェブカメラとマイクを用意すればいいだけでしょ、と思うかもしれませんがそれでは不十分です。上記資料では、オンライン診療システムを医療情報システムと接続するケースとそうでないケースに分けて要件を挙げ、JPKIを用いた本人認証機構や不正アクセス検知・防止装置の導入、BYOD(Bring Your Own Device:私的端末の業務利用)では端末にデータを残存させないこと、不正アクセス時のログ保全措置などの種々の要件を盛り込んでいます。
どれも言われてみれば当たり前の対策ですが、きっちり要件を満たすにはハードウェア・ソフトウェア双方の観点から十分な検討が必要になります。特にJPKIでの本人認証となると、無料で使えるソフトにはまず搭載されていないと思います。
また、新型コロナウイルスが疑われる患者に対しオンライン診療を行う上で配慮すべき点が下記の特設ページにまとめられていますので、こちらもぜひ一読しましょう。
例えば注意点として「医師から患者へ繋げるようにすること(第三者の参加防止)」や「端末起動時に生体認証やパスワードで操作者の本人確認を行うこと」などが掲げられています。設備面だけでなく人的な観点からも、なりすましや傍受の防止対策を講じなければなりません。
対診に使われる可能性も
ただし患者とのオンライン診療にあたっては、ハードルがやや高いと思われます。上記に掲げられた要件を満たすにはLINEのビデオ通話というわけにはいかないので、導入するとなれば、患者が使用するアプリまでを含めたオンライン診療ソリューションになると予想されます。
となれば患者にアプリをインストール・初期設定するところまでしてもらわなければならず、症状で苦しんでいる本人には苦痛でしょう。またスマートフォンを持っていない方や高齢者には難しいものがあります。手間取っているうちに、来院した方が早い、となってしまいます。
ところで上記資料で気になったのが、案として掲げられている対診での利用です。例えば集中治療に不慣れな病院が、大病院などの医師とオンラインで繋ぎ患者を診察してもらおうというもの。
資料では人口呼吸器を装着した入院患者を専門医が外部からオンライン診察するケースを想定しており、これは可能性として大いにありそうです。病院間の接続であれば職員がインフラやシステムを整備できますし、VPNや地域連携システムなどで医療機関同士をセキュアに繋ぐ基盤が整っていれば、そこに乗っかって運用することも可能でしょう。
市中感染や院内感染が広がってきている現況では、いかに入院患者を感染させないかも喫緊の課題です。病院職員の感染対策のみならず、予約以外の患者を原則受け付けない、面会を全面禁止とする、など徹底しなければ防ぎ切れません。こうしたなかで専門医の診察を仰ぐにはオンラインが有効手段になります。
通信帯域の確保も忘れずに
また通信帯域の確保も必要です。ネットの情報によると、都市部では在宅勤務者が増えたことで、大規模マンションで各戸のインターネットが繋がりにくくなっていると耳にしました。ビデオは通信量が多いため、細い帯域では診察に耐えない粗い画像になってしまいます。患部や表情などをしっかり見るためにはそれなりの画像品質が求められますので、何人くらいの患者を診るのかも見積もるべきでしょう。
日常の想定を超える通信量に膨らむ可能性があるため、必要に応じて通信量の契約を上げたり、多くのパケットをさばける堅牢なルータに交換したりなどインフラの増強を図ることも検討すべきですね。
セキュリティに万全の注意を
セキュリティについては、Zoom爆弾の件が記憶に新しいですね。1対多のビデオ配信が簡単に導入できるとして多くの企業で使われてきたZoomに、第三者が会議に乱入できてしまう脆弱性が見つかりました。これについてはすでにセキュリティパッチがリリースされ、オンライン会議にパスワード保護が掛けられるようになったようです。
Zoomについてはこちらの記事に書きましたので、ご参考に。
普段ならばプライバシーが守られた個室で対面診療するところがオンラインに変わるのですから、目に見えないインターネット空間でどうプライバシーを保護するかも重要になります。こうしたリスクが潜んでいることも視野に入れておかなければなりません。
今までオンライン診療に縁がなかった病院でも、導入の空気を帯びてきていると思います。病院内SEとしてしっかり整備を行い、体制づくりに臨みたいものです。
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